【書評】『星を継ぐもの』と『ガニメデの優しい巨人』 ジェムズ・P・ホーガン感想




当サイトでは、ロマンを感じるSF小説の書評も積極的に行っていきたいと考えております。というのも、宇宙に興味を抱いた最初の手がかりは何と言ってもSF!ということで、ISS内で映画『ゼログラビティ』を見るこのSF時代です。SFこそ全ての原動力。


ということで最初のSF書評は『星を継ぐもの』です。





あまりにも有名すぎて長らく読むことが出来ていなかったのですが、SF読むなら夏のうちだろ、という強迫観念のもと近所のブックオフに歩いて行って買ってきました。



夏にしては寒かった昨日(2014年8月26日)、午後いっぱいを使って一気に読みきりました。思っていたほど厚くなかった(309頁)ですが、内容はかなり濃くボリューム感はいっぱいいっぱいな感じでした。本当に一杯一杯。

ネタバレなしの感想だと、非常に良く考えられているなということ、そしてそれ故かなり普遍性をもったSF作品になっていて、なるほど不朽の名作とはこのような作品の事を言うんだなということ、この2点が大きいです。

確かにミステリー的な要素もありますが、作品の内包する圧倒的なスケール感の前だとミステリーどうのこうの言ってる場合ではなくなってしまいます。
まあ異星人が出てくるわけですが、今までSFに出てくる異星人といってもハイハイそうですか、くらいの受け取り方しかしていませんでした。しかし、本作における異星人の存在感は非常にリアルで、図らずとも実際に宇宙人いるんじゃねーのか?と思わせるほど、その描写はリアルで鮮やかなものです。

さて、ネタバレ無しで話をするのも無理な相談なのでネタバレの感想を書いてみます。








*    *    *






月面調査員が、真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体はなんと死後5万年を経過していることが判明する。果たして現生人類とのつながりは、いかなるものなのか? いっぽう木星の衛星ガニメデでは、地球のものではない宇宙船の残骸が発見された……。ハードSFの巨星が一世を風靡したデビュー作。(東京創元社




舞台は2080年くらいの地球。第二次世界大戦後は大きな戦争も起こらず、冷戦体制は先細りとなり、タブついた「科学」への欲求が宇宙へ向かっていった時代。すばらしい設定ですね。今、現実世界がこうなったら最高なのに、という作者の理想的な未来像なのかもしれません。 まあ、往々にして宇宙開発など大型のブックプロジェクトは現実よりも進んでいて、コンピュータやソフト面は現実よりも遅れている印象ですね。2080年までに恒久月面都市が出来ていたら御の字、木星に有人で行けてたら最高です。


まあそんな中、ハント教授という『ダヴィンチコード』でいうラングドン教授のような中年英国紳士が活躍するわけです。カッコいいですねえ。そこへダンチェッカー教授という典型的学者が加わって、物語の根幹を成す理論を本の最後へ向けて構築していくわけです。ハントが読者と一緒に様々なヒントから宇宙を探求し、ダンチェッカーが最後に圧倒的な演説と共に答えをバラす、というスタイルが基本です。ハントは非常に安定しているので、読者も安心して物語に引きずり込まれることができるのです。これがベースの部分です。


・プロローグ
まず特筆すべきは、印象的なプロローグでしょう。1人の人間が力尽きる様、辺りの絶望的な雰囲気、強い力を持った謎の人物の存在感が克明に描かれています。これだけで鳥肌モノの超級SFだ、ということを感じることができる衝撃的な一節です。すばらしい。

・チャーリーの発見
そこから、映画的な演出でハントがアメリカに渡り、チャーリーと衝撃的な対面を果たすまでの流れも完璧です。不可分無く、非常にリズム良く「謎が謎を呼ぶ」展開が続きます。

そこから先の喧々諤々、実際にまあ〜こうなるだろうな、という学会での描写もなかなかのもんです。全体的にこのリアル感は、SFとしては結構珍しくも感じます。といっても多少は理想主義的な感じもしますがね。

・すごい
まさか、ですよ。月それ自体が宇宙を突っ切って地球に来た、とは考えませんよ。もはや脱帽するしか無いアイデアですね。そこからネアンデルタール人へ繋ぎ、理論的補完もなされるという、もはや完璧に術中にハマった感じです。
最近の研究では、ネアンデルタール人が滅びた原因として言語能力に劣っていた点と言われているようですが、それでもこれに矛盾しないです。


しかし、その月ごと地球に乗り付けた、というアイデア以上に印象的だったのが、最後の方のページ全部使って言い切ったダンチェッカーの演説。これにはアツいSF魂を感じざるを得ませんでしたね。アツいです。








そして続くのが『ガニメデの優しい巨人』。星を継ぐものが惑星の出で立ちなどスケールの大きいものをテーマとしていたのに対し、こちらはうってかわってマクロスケールな遺伝工学や酵素が話の中心になってくる。なのでこれまた非常に読み解くのに時間が掛かる(専門知識はまるで無いので)が、それでもじっくり読めばかなり筋が通っている事がわかります。恐るべきほどに用意周到に組まれた、種の起源に迫る終盤でのダンチェッカーの演説はまたもや秀逸。しかし、前作が月の起源に迫り、意気揚々と決意を表明していた彼も今回はがりは落ち込みがちのようにも見えなくも無い。一体次回作がどうなるのか非常に気になる終わり方でした。


そしてここまで読んで、この先どうなるのか。本格ミステリーということもあり、少し予測してみます。ヒントはかなり提示されていました。



・ルナリアン
最初の伏線であるように、ルナリアンは最終戦争時、ガニメアンと交流を持っていた。そしてガニメアンは地球に降りて文明の起源的なものになっている。
また、現在も彼らの1部は生存していて地球を監視している。五万年前、1部のルナリアンはガニメアンに助けられ彼らの星に行ったのかもしれない。

どうでしょう?
三部作のシリーズなので、一気に読んでしまうのが良いのかもしれません。

非常に読みやすいです。




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